部屋の隅に置かれたゴミ箱。
それを見ては深く溜息をついた。
あの日からずっと、封筒はそこに捨てられたままだ。
気になっているはずなのに、見たくなくて視線を逸らした。
封さえ開けていない。
自分にとって嬉しいことかもしれないし、悲しいことかも知れない・・・・そう思うと中々踏ん切りがつかなかった。










ただ君に・・・・この想いを










人気ミュージシャンのアスランが招待制のコンサートを開くと知ったのは、封筒が届いた日から数日後のことだった。
なんでもデビューしてから3年間、招待も分からない自分の曲を気に入ってファンレターを出してくれた人を優先に招待状を出したらしい。
彼のあの容姿だから、純粋に曲だけ・・・・という人は少ないだろう。
もちろんそれだってアスランの魅力ではあるし、それも一つのキッカケと捕らえる事は出来る。
けれど、彼はそれを良しとしなかったのだろう。


「アスランらしいよね・・・・」


そう呟くの前には、あの封筒が置かれていた。
アスランファンサイトに載せられていたものが、自分の元へ届いたものに似ていたからだ。
本当にこの中にチケットが入っているのだろうか。
そんな緊張から、心臓は早鐘のとうに鼓動した。
封筒を開封すると中に指を入れ、中身を抜き出していく。
出てきたのはコンサートのチケットだと思われる招待状が1枚。


「どういう・・・こと?」


確かにの予測通り、コンサートのチケットが入っていた。
しかしそれ以外には何も同封されていない。
わけが分からなくて、ただ呆然とそれを見つめた。
これは、コンサートに来いということなのだろうか。
分からない・・・・彼の考えていることが。
けれど彼はいつだってそうだった。
多くを語らず、本心を見せないでに困惑しか残さない。
そして気づいた時には逃げ出すという選択肢しか残されてはなかった。
彼を愛していた分、余計に・・・・・・。


「またあなたは・・・私の心を乱すの?」


頬を伝う感触に、は自分が泣いているのだと気づいた。



















結局はコンサートへ来てしまった。
どうやら座席は抽選制のため当日まで分からないらしく、最前列という思いがけない出来事に、何度帰ろうかと思ったか分からない。
それでももう来てしまったのだしという諦めと共に、大人しく席に着いた。






失くしたもの 見つけた答え
大地の灯火 消えた幻
会いたいと叫ぶ心
会えないと 拒むキミは
言えない答え探して 迷い続けた

どこまで 行けばいい
争いのない場所なんて
俺達は探していた
未来の架け橋を

止める腕 振り払って
キミの呼び声に 足止めた
振り返ることなんて
俺にはできない


ただ君に・・・・この想いを








コンサートはクライマックスを迎える。
淡い照明が照らす薄暗いドームの中を、アスランの澄んだ声が木霊した。
心地よいメロディーの旋律と、感情の篭った歌詞が観客を引き込んでいく。
こうしてアスランを見るのは何年ぶりだろう。
大好きで大好きで堪らなかったお隣のお兄さん。
そんなのただの憧れだって思っていた。
3つも年が離れてて、話題だって食い違って・・・・・。
それでも幼いながらに一生懸命追いつこうとしてた。
だから疲れてしまったのかもしれない。
もう・・・・いいよね?
お願いだから私に構わないで・・・・・・。


「さようなら・・・・・」


曲はラストに差し掛かり、は見ている人の邪魔にならないように席を離れて通路に向かう。
その時フッと照明が消え、観客のざわめきが耳を支配する。


「な―――っ!?」


後ろから突然襲い掛かってきた腕に押さえられ、は悲鳴を上げようとした。
しかし素早く口元を押さえられてそれも叶わない。


「ごめん・・・・少しだけでいい、暴れないでくれないか」


乱れた息に熱い吐息。
少し掠れているけれど、その声は今さっきまでステージで歌っていた人のもので・・・・・・・・。
耳元で囁かれた声に、の胸は高鳴った。












続く












久しぶりの更新です!
実はこれはノートに書いていたので本来ならもっと早く更新できたはず
なのですが、PC触れませんでした(汗)
残すところ後1話!!(予定では、ですが)
アスランとヒロインの関係が垣間見えつつ、次回へv

06.07.02