風が吹く丘の上。
たくさんの墓標が並ぶその場所は、数え切れないほどの悲しみが詰まっていた。
亡骸さえ見つからない、形だけのお墓に刻まれた名前は、戦争の最中亡くなった者たちばかりだ。
そしてそこから少し離れた先には、血のバレンタインの悲劇で亡くなった人たちの慰霊碑と、お墓がある。
休戦という形で終わった戦争。
それに異論を唱えるものたちもいたけれど、それでも確かに平和は訪れた。


「やっと終わったよ・・・・・」


百合の花束を抱えた女性は、悲しそうに微笑んでいた。
その隣には、女性の肩を抱き支えるように立っている男性がいる。
女性は膝をつくと、花束をお墓の前に置いた。



―――――――ミゲル・アイマン



お墓には、そう刻まれていた。












悲しみを乗り越えて













かつて共に戦った仲間たち。
その多くが志半ばで命を落とした。
そして彼女――の元婚約者も・・・・・・。


「ミゲル、あの時言えなかったことを今言うわね」


今更かもしれないけど・・・・・そう切り出したの瞳からは、一筋の涙が落ちる。


「私ね・・・・アスランのことが好きなの。きっと幸せになるから・・・・だからっ・・・・」


本当は、きちんと彼に伝えたかった。
そうすることで彼を傷つけてしまうとしても、後悔だけはしたくなかったから。
例えそれが空っぽのお墓でも、そこにミゲルがいるような気がした。
悲しくて、苦しくて、溢れ出る涙は止まらない。
それでも前に進むの。


・・・・」


振り向けば愛しい人。
彼はすぐそばにあるニコルやラスティのお墓に、先に花を供えに行っていた。
溢れる涙を拭って、は立ち上がる。


「アスラン、私決めたわ」

「・・・・・・・・・・」


の言葉に、アスランは何も答えない。
けれど彼女がなにを言おうとしているのか、薄々感づいているようだ。
きっと彼は反対するだろう。
それでも、はもう決めてしまった。
アスランに笑顔を向けると、その表情には合わない口調で告げた。


「            」


呟いた言葉は、吹き抜ける風にかき消される。
思わず閉じてしまった目を開けると、変わらず微笑むがいた。
















アスランはもう、プラントに来ることは出来ない。
それは自分の父、パトリックが原因でもあるし、アスラン自身にも責任はある。
だから彼は誰も責めないし、誰も憎まない。
全ては自分が悪いのだと、そういって心の中に押し込んでしまう。


、俺はオーブに行く」

「・・・・・そう、決めたのね」

「ああ・・・・」


本当は、そんな彼に着いて行くべきなのかもしれない。
それは婚約者として当たり前のことだし、自身もそうしたいと思う。
でもそれは出来ないのだ。


「私は・・・・・・」

・・・・言わなくていいから」


アスランはその唇を強引に塞いだ。
重なった唇から、とろけるような甘い刺激がを襲う。
腕を伸ばして、アスランの首にしがみついて、さらに深く激しくキスをする。





言葉なんか要らない。






欲しいのは温もりだけ・・・・・・・・。














それから数日後、アスランはプラントを旅立った。
を残して・・・・・・・・。


「これで・・・・・いいのよね」


強くならなきゃいけないから。
一人でも生きていけるように。
溢れる涙は止まらないけれど、はずっと宇宙を見上げていた。
アスランの乗ったシャトルが見えなくなっても、ずっと見続けていた。
しばらくして、は歩き出す。
その先は・・・・・・・・・プラント代表の元。

















私決めたの。












―――――――――――もう一度、軍に戻るわ・・・・・・・。





















END