「はぁ・・・・・・」
は、本日何度目か分からない溜息を吐いた。
眉を寄せて通路を歩くその姿は、周りの者の視線を集める。
今彼女の脳裏を占めているのは愛しいアスランのこと。
先日想いが通じ合ったばかりで、幸せなはずなのになぜか溜息が絶えなかった。
「どうしてあんなこと言っちゃったんだろう」
あんなこと・・・・それはアスランとの関係は秘密にすること。
ミゲルという婚約者がいただからこそ、やっぱり世間体は気にするところ。
別にはアスランさえいれば、誰になんと言われようと構わない覚悟はできていた。
けれどそうできなかった理由はアスランを思ってのこと。
噂でも名高いアスランの父は、最高評議会議員。
幾らの家柄がザラ、そしてクライン家と同等のものでも今やプラント全国民に支持されている彼らの婚約解消、というスキャンダルがあってはならないのだ。
そんな事をアスランの父が許すとも思えない。
だからこそ敢えてアスランに提示した条件だった。
「やっぱりあんなこと言わなきゃよかった・・・・・」
表向きは誰もがラクスとアスランの婚約を祝福し、そして影では密かにアスランを狙っている人も少なくはない。
といっても彼女たちは皆、一夜限りでもいいからアスランと過ごしたいと思っているようだ。
それほどまでにラクス・クラインという存在は大きい。
そんな彼女には、勝てるはずもないのに・・・・と今更ながらに思い知ったのだった。
毎日毎日アスランは艦内の女の子たちに言い寄られている。
そんな姿を見るたびに、は不安になるのだ。
「う〜・・・アスランのバカーーーー!!」
「誰がバカだって?」
「え? あっ、アスランッ!?」
思わず叫んでしまってから慌てて口を紡ごうとしただったけれど、それよりも先にアスランの声が聞こえた。
恐る恐る振り返ると、微笑を浮かべたアスランがいた。
どうやらさっきの一言で、機嫌を損ねたわけではなさそうだ。
ホッと息を吐くに、アスランはそっと近づく。
「最近元気がないけど・・・どうかしたのか?」
「・・・別になんでもないよっ」
本音をいったところでどうなるわけでもない。
だからは本当のことを言わなかった。
こんな時、もっと素直になれたら・・・・・そうなんども思った。
不器用な自分が嫌い。
どうしてもっと自分の気持ちを正直に伝えることができないのだろう。
「ほんとにそ・・・・」
「あれ〜? にアスランじゃん」
「ディアッカ!」
突然現れたディアッカの声にアスランの呟きは遮られ、彼は一瞬眉をひそめた。
はそれに気づいたけれど、見てみぬフリをしていた。
「珍しい組み合わせだな?」
「そう・・・・かな?」
「別にそんなことないだろう」
ディアッカが思ったことを素直に問いかければ、戸惑うようなと怒ったようなアスランに睨まれた。
今は亡きミゲルの婚約者だったに、手を出すやつがこの艦にいないとは思っていても、やはりそういうことは気になってしまう。
とはいってもアスランにだってプラントのアイドル、という婚約者がいるのだからこの二人は絶対にそんな関係ではないと思ってはいる。
それでもやはりディアッカは気になってしまった。
「ところで、どうしてディアッカがこんなところにいるんだ?」
低い声でアスランが問いかければ、ディアッカは今思い出したというような様子でアスランに言った。
「そうそう、30分後に作戦会議だとよ」
これ以上この場にいたくないのか、俺は伝えたからなとそう一言残してディアッカは去って言った。
アスランはその後姿を見送ったあと、人がいないのを確認してを近くの空き部屋へと押し込んだ。
「きゃっ!? もう・・・どうしたの、アスラ・・・ッ!!」
電気のついていない薄暗い室内で、アスランはを抱きしめると唇を重ねた。
突然のことに驚いたはアスランから離れようとするが、力強い腕に拘束されついには大人しく身を任せていた。
激しく絡み合うその口付けは、アスランの温もりをに伝えた。
先程までの不安はどこかに消え、新たに芽生えるのは信じる気持ち。
アスランを信じたい、否信じてる。
その気持ちがあればどんな悲しみにだって耐えていける。
「大好きよ・・・・アスラン」
私はとても不器用だから。
いつも貴方に心配をかけてばかりね。
でも、もう大丈夫だから。
私はもう、大丈夫・・・・・・・・・・・。
END