「カガリ、部屋に戻ろう」


あくまで自分達は他人で、彼はアスランではなくアレックス。
それでも、今彼に抱きしめて欲しいと願っている自分がいた。
強くなったつもりでも、本当は不安で押しつぶされそうで、何度泣きたくなったか分からない。
それでももう、何も出来ないままの自分が嫌だから。
ミゲルの形見の婚約指輪を服の上から握り締める。


「・・・・・・・・」


カガリを伴って部屋を出て行くアスランが、一瞬後ろを振り向いてわずかに唇を動かした。







"今はごめん―――・・・・"











時の砂 〜運命の邂逅〜 5




















いつからこうして一人で指輪を見つめるようになっただろうか。
照明もつけないで、薄暗い部屋の中ベットで蹲る。
軍服の留め具をわずかにはずし、ため息が一つこぼれた。


「アスラン・・・・・」


最後に交わした口付けは、もうずっと前。
久しぶりの再会がこんなにも突然やってくるなんて考えてもいなかったことだ。
本当は戦争が終結してすぐ、アスランと結婚するはずだった。
でもがそれを拒んだのだ。
彼を愛しているし、結婚だってしたい。
想いはアスランと同じだと思う。
でも、このままアスランと結婚しても何も変わらないと思ったから。
守られるだけ、祈っているだけの過去の自分と・・・・・・・・。


「今だって何も出来ないじゃない・・・・・」


自嘲気味に呟くが、自分の情けなさを痛感するだけだった。
軍に志願したところで戦闘に参加は出来ない。
結局シンたちが無事に戻ってくるよう祈っているしか出来ないのだ。
アスランはもう道を見つけてる。
カガリを守り、手助けするという。


何も出来ないのは私だけ――――・・・・・・・。


ピピッ・・・・・。
ロックを解除する音が鳴り、扉が開く。
廊下の明かりが薄暗い部屋をわずかに照らす。
入り口に立つ人影に、は顔を顰める。


「誰・・・・? 挨拶もなしに入ってくるなんて無神経な人ね」


声をかけるがその人物は答えない。
シュンッと音を立てて、扉が閉まる。
は警戒して身体を強張らせるが、すぐに部屋の明かりがつけられその人物の顔が見えた。


「・・・・アスラン!?」

「無断で入ってすまない・・・・。だが誰かに姿を見られるとまずいから」

「アスランなら平気。でもカガリは大丈夫なの?」

「ああ、今は部屋で休んでるよ」


口ではカガリを心配したように告げるけれど、アスランに向けて腕を広げていた。
それは抱きしめて欲しいという合図で、不安な気持ちを隠すことなくは眉を寄せて彼を見る。
今にも泣きそうに歪んだ表情が、アスランの胸を締め付けた。
戸惑うこともなく、ただ自然に彼女を腕に抱く。
言葉はなく、静かにお互いの温もりを感じていた。


「俺はこれから破砕作業に参加する」

「っ!? ・・・・・・そう」


驚きに目を見開いて、けれどすぐに微笑を浮かべる。
心の何処かでこうなるだろうことは予測していたことだった。
アスランは目の前で起こっている出来事にを、ただ黙って見ていることはできない人だ。
軍人として染み付いた行動や思考はそう簡単には消し去れない。
現に今でも無意識のうちに気配を消すことがある。
アスラン自身そのことに気づいてはいた。
一度ぎゅっと彼の服を掴んだ後、力を緩めては身体を離す。


「貴方が・・・・アスランが決めたことだもの。私は何も言わないわ」

「・・・・何があってもへの想いは変わらない」

「うん、分かってる。無理だけはしないで・・・・どうか無事に戻ってきて」


ゆっくりと目を閉じ、は自らアスランに口付けた。

























まさかまた、これを着ることになるとはな・・・・。


予備で置かれていたパイロットスーツに腕を通し、手馴れた手つきで着込むとヘルメットを手に取る。
準備は整い、窓の外に視線を向けたとき扉が開いた。


「なんであなたがそんなものを着ているんですか!?」

「破砕作業に参加させてもらう」


感情を露に叫ぶシンとは反対に、アスランは特に感情を込めることなく淡々と告げる。
その様子に彼はさらに苛立ちを隠せないようだ。


「どういうことです? あなたはミネルバのパイロットではないでしょう!」

「議長に許可をもらった。この状況を黙ってみていることは出来ないからな」

「だったら・・・なんであなたは・・・・っ!」


彼の質問に答えることなく、アスランは格納庫へと向かう。
すれ違いさまに向けられた彼の瞳は、まるで血のように真っ赤だった。
シンの言いたいことは分かる。


ならなぜオーブなんかに。


きっとそう思っているのだろう。


『俺の家族はそいつの親父・・・アスハに殺されたんだ!』


シンがそれだけの理由でオーブを憎んでいるのだと、アスランには到底思えなかった。





























ということで、今回はヒロインとアスランメインでした^^
ちょっと甘く(?)出来て満足ですv
そしてヒロインとアスランが結婚してない理由が明らかに!?(笑)
もっと強くなりたかったんですよ。
自分に出来る精一杯のことをしたかったんだと思います。
もちろんそのままアスランに甘えてしまうことはできるけど、
だけどそれだったら何も変わらないのです。
対等でいたいから、だから今は結婚できないと。
そしてアスランもそんな気持ちを理解した上で、カガリの護衛をしてます。
あ、このお話でのカガリやキラの考え方や行動などはアニメとは少し違います。
カガリはもっとしっかりしてて、キラはキラで色々と。
その辺はだいぶ先になるとは思いますが・・・・・・
キラ、結婚式場からカガリ拉致事件を見ていただければ分かるかと(笑)