もし、今あなたに逢えたなら
私は彼を憎まないでいられるから・・・・・・・・・
どうにもならないくらい、私はあなたに溺れてる
時の砂 8
「ど・・・・してぇ・・・・・・・っ!!!!」
なぜ大切な人は皆、彼に奪われてしまうのだろうか。
また新たに頑張ろうと決意した矢先、挨拶に向かったが聞かされたのはもっとも残酷な言葉だった。
―――バルトフェルド隊長が戦死した。
思わず耳を疑いたくなるようなその言葉に、は声を出せないでいた。
それから暫くはなにも考えることが出来なくて、与えられた自室に入り一人になって初めて涙を流した。
ベッドに縋り付くようにして、ただ声を上げて泣いていた。
もう一度会えると思っていた彼らのあの笑顔は、もう二度と見ることは出来ない。
必ず帰ってくると、そう約束したミゲルのように・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・アンディ・・・・・アイシャぁ・・・・・・」
泣き疲れてしまったのか、だんだんと遠のいていく意識には目を閉じた。
アスランたちがこの艦にいるということを知ったのは、それから3日後のことだった。
「お久しぶりです」
「よっ、姫さん」
「フン・・・・」
「・・・・・・」
皆それぞれに言葉を投げかける。
けれど、アスランだけはと目を合わそうとはしなかった。
そのことに苦笑しながら、それも仕方ないのかと納得し笑顔を浮かべた。
もちろんそれは、心からの笑みではなかったけれど・・・・・・・。
「皆も、久しぶりね。無事で、よかったわ・・・・」
小さな頃から感情を偽るのは得意だった。
悲しいのに笑顔を浮かべて、泣きたいのに泣けなくて。
いつも一人になると静かに泣いていた。
母が死んでから、はずっとそうしてきていた。
父のために、自分のために。
そう思うことで必死に自分を保とうとしていたのかもしれない。
今だって、本当は泣きたいのに無理に微笑んでいた。
「明日はオーブに潜入ですってね。艦長から聞いたわ」
「・・・・・ああ」
わざとアスランの方を向いてそう言った。
相変わらずの方を見ようとはしなかったけれど、それでよかったのかもしれない。
きっと今アスランの顔を見てしまったら、泣きたくなってしまうから。
抱きしめて欲しくなってしまうから。
「頑張って、それから気をつけてね・・・・・・」
そう一言呟くだけで精一杯だった。
それから機体の整備があるからとニコルたちが去って行き、その場に残ったのはとアスランの二人だけだった。
「アスランは、行かなくていいの?」
「・・・・・・・・・・・」
沈黙に耐えられなくて、そう問いかけて見るけれどアスランは黙っていた。
「やっぱり、あの時のこと気にしてるのね」
「・・・・・・っ!?」
アスランの息を呑む声が僅かに聞こえた。
あの時はアスランに一方的に気持ちをぶつけて、曖昧にその場を去った。
けれど今は・・・・・・・・・・。
「私、後悔してないよ。だって、アスランのことが好きだからっ」
例えその気持ちが、彼にとって迷惑なものだったとしても伝えずにはいられなかった。
もう伝えられずに後悔するのは嫌だから。
言い切った瞬間、今まで堪えていた涙がの頬を伝う。
その時初めてアスランがの方を見た。
驚いたように見開かれている翡翠の瞳は、涙で視界が歪んではっきりと見ることは出来なかった。
「それだけ、伝えたかったの・・・・・・」
「・・・・・・っ、俺・・・は」
「言わないでっ!!」
言葉を紡ぐアスランの声を遮るように、は叫んだ。
「お願い、それ以上言わないで・・・・・・・」
「・・・・・・」
「分かってるの、迷惑なことくらい。でも、それでも言いたかっ・・・・・!?」
突然身体を引き寄せられたかと思うと、唇に柔らかくて温かいものが押し当てられた。
それがアスランの唇だと分かったのは、目の前に迫る翡翠の瞳を見たときだった。
「んんっ・・・・・アス・・・・ラっ!!・・・ふっ・・・・」
身体の奥から湧き上がるような熱さ。
きっと自分の頬は真っ赤に染まっているだろう。
望んでいた、けれど叶うことなどないと思っていたその温もりに包まれていた。
止まることのない激しい口付けに息を乱しながら、はそっと瞳を閉じてアスランに身を任せていた。
その口付けはとても激しくて、けれどとても甘いキスでした・・・・・・・・・・・。