憎しみに囚われるだけは嫌なのに






















心が憎しみの色に染まっていく




















もっと強く、迷わずにいられたならば・・・・・・・・・・・・・・





















時の砂 7
















結局彼は、銃を向けていながら彼らを生かした。
その選択が間違っているとか正しいとか、それはにも分からない。
それでも抑えきれない怒りがあるのだ。
どんなに静まれと心で願っても、どうにもならなかった。
あの時バルトフェルドが止めてくれなければ・・・・・・そう思うと怖い。
けれどそんな想いとは裏腹に、理性よりも憎しみの方が強かった。



「どうしてあの時私を止めたのっ!?」



掴みかかるような勢いで、はバルトフェルドに詰め寄った。



「では彼を殺したいと本気で思っていたのか、君は」

「それは・・・・・・・でもっ!!」

「確かに大切な者を失った悲しみは大きいだろう。だが、それでは止まらない」



なにを、と問いかけた口をは閉じた。
怒っているわけでもなく、けれど優しく微笑んでいるわけでもない。
そんな軍人の顔でバルトフェルドの瞳はを見据えていた。
彼の言いたいことが全く理解できないわけではない。
軍人である以上、死ぬことを覚悟していなければならない。
殺されたからと言って憎むのは見当違いなのだと、分かっている。



「気づかないよりも、その過ちに気づいた方がいい。そうだろう?」

「・・・・・・・っ」

「いつも誰かが止めてくれるとは限らない」



ポンとバルトフェルドの手がの頭に置かれた。
撫でるようなその仕草に、思わず涙が溢れてきた。
なにも出来ない自分が悔しい。
憎むことしか出来ない自分が歯がゆい。
それでも、憎まずにはいられない。
もしもう一度大切な人を失ってしまったら、今度こそ自分は狂ってしまうだろう。



「暫く一人で考えてみたらどうだ?」



そう言ってバルトフェルドは部屋から出て行った。

























それからどれだけの間一人で泣いていたのか分からない。
ふと外に目を向ければ空は赤かった。
いつまでもここにいるわけにはいかないので、は自室へと向かうため部屋から廊下へ出た。
ドアを開けた途端冷たい外気にさらされて少し寒さを感じた。
年中暑い砂漠も、夜になれば冷え込むのだ。
今はまだ日も落ちていないので少しはマシだったけれど、それでもあと2〜3時間すれば格段と気温は下がるだろう。
そんな事を考えながら、は廊下を進んでいった。
いつもならば少なからず人の気配がするのだが、なぜか今日はシーンと静まり返っていた。



、捜していたのよ」

「アイシャ・・・・・」



背後からかけられた声にが振り向くと、そこにはアイシャが立っていた。
いつものならば、笑顔で彼女に挨拶をするのだが生憎とそのような元気はなかった。



「アンディから聞いてるわ。あなたも大変だったのね」

「・・・・・・・・」



そっとを胸に抱き、アイシャは微笑を浮かべていた。
久しぶりに感じた人の温もり。
まるで母のようなその懐かしさに、はまた泣きそうになっていた。



「でも、泣いてなんかいられないわよ」

「アイシャ・・・・?」

「クルーゼ隊の子達が降りてきたらしいの。あなたはそこに向かうことになっているわ」

「また、転属ですか・・・・・・・?」



やっとここにも慣れてきたのに、また転属。
評議会はいったい何を考えているのか、には理解できなかった。
思わず呆れたくなってしまうけれど、命令なのだから仕方がない。



「寂しくなっちゃうわね」

「そう、ですね・・・・・」

「明日にでもすぐにらしいから、これから荷物を整理してもらえるかしら」

「はい」


















護送されるシャトルの中で、は暫く砂漠を見つめていた。
久しぶりに感じることの出来た家族のようなあの場所を離れるのは、少しだけ残念だった。
いつ死んでしまうか分からないのが戦争で、だからこそもう一度なんてとても曖昧なものだけど。















それでも。





























もう一度会えるだろうか。






























あの笑顔に、温もりに・・・・・・・。



































そして今度こそ笑顔で・・・・・・・・彼らに会いたい。























別れの涙は、もういらないから・・・・・・・・・。































けれど転属先でが聞かされたのは、バルトフェルドとアイシャが戦死したという知らせだった。