まさか、砂漠の虎があの人だったなんて・・・・・・・。
私、ここでやっていく自信がありません。
時の砂 6
初めての地球、それも砂漠という一面砂だらけの場所。
迎えの車に乗せられて、は少しだけわくわくしていた。
けれどこれから行く場所が、悪夢の始まりだとは知らずに・・・・・・。
「この子があなたが言っていたちゃん?」
「そうともアイシャ、可愛いだろう?」
通された隊長室で、は二人の男女に囲まれていた。
アイシャ、と呼ばれた女性はとても艶のある笑みでを見ていた。
その傍らにいるコーヒーを片手に持ち、呑気な態度の彼はアンドリュー・バルトフェルドだった。
「・・・・・あっ・・・・あっ・・・・アンディお兄ちゃんっ!?」
「覚えていてくれたのか、それは光栄だなぁ」
「こんな可愛いこと知り合いなんて、ちょっと妬けちゃうわね」
開いた口が塞がらない、と言うのはまさにこのことだろう。
彼は、の父の親友で母の弟だった。
つまり、家系の中では二人は叔父と姪になる。
がまだ5歳のとき、母の葬儀で会ったきりだった。
その時泣きじゃくるの頭を、大きな手で撫でてくれた。
ほんの数日彼と過ごしただけだったが、とても大きな存在だったのだ。
その彼が・・・・・・まさか砂漠の虎だったとは・・・・・・・。
地球に降り立ってから数週間。
そろそろこの場所にも慣れ始めたかな、と言う頃のことだった。
彼がやってきたのは・・・・・・・・・。
「、これをアンディのところへ運んでくれるかしら?」
「はい、分かりました」
相変わらずの仕事は雑用で、これでは何のためにザフトに入ったのか分からない。
今だって、ザフトの軍服ではなく普通の私服を着ているのだ。
君は暫く休んでいろ、とそう言われた。
まるで子ども扱いされたようで腹立たしかったけれど、それでもここの暮らしは、の心の傷を少しずつ癒してくれた。
「誰かお客さまかしら?」
カップの乗ったトレイを運びながら、はそんな事を考えていた。
ここに滅多に客人が来ることはない。
それはバルトフェルドの変わった性格故なのだけど。
そんな事を考えているうちに、客室についてしまった。
軽くドアをノックして、は中に入った。
「失礼します・・・・・」
「そこに置いてくれないか」
「はい」
ソファに座っている少年をチラリと盗み見ながら、はトレイをテーブルの上に置いた。
年頃はとそう変わらないだろうその少年は、亜麻色の髪にとてもきれいなアメジストのような瞳をしていた。
思わず見入りそうになったその時、アイシャが一人の少女を連れて入ってきた。
「おやおや・・・・」
「・・・・・・」
ソファに座っていた少年も、思わず立ち上がり彼女を凝視していた。
にはいまいち状況が掴めず、退室しようとしていたアイシャと一緒に出て行こうとした。
「、君はここに残れ」
「・・・・・・は、はい」
ところがバルトフェルドに引き止められ、目の前のドアがゆっくりと閉められた。
言外に、これは隊長命令だ、そう言われたような気がしては嫌とは言えなかった。
仕方なく、バルトフェルドの後ろに立っていることに決めた。
その時、客人である彼らに怪訝な瞳で見られたが、は気にしなかった。
黙って彼らの話を聞いていたけれど、どうも話がつかめない。
一体彼らは何者なのか。
まるで、彼らを挑発しているようなバルトフェルドの態度も、には理解できなかった。
「君はどう思ってる?」
「え?」
「どうなったらこの戦争は終わると思う? モビルスーツのパイロットとしては」
「お前、どうしてそれをっ!!」
ガタンっと音がして少女が立ち上がった。
は信じられないと言った瞳で彼を見つめていた。
「あなた・・・・・地球・・・軍なの?」
「・・・・・・・・・」
沈黙は肯定ととれ。
それはが教えられてきたことの一つだった。
「あなたが・・・・・あなたがっ!!」
ミゲルを・・・・・・・・殺した。
その言葉はバルトフェルドに止められ、口に出すことが出来なかった。
なぜ止めるのかとバルトフェルドを睨むけれど、それ以上に鋭い瞳で睨み返された。
「戦争には制限時間も得点もない。ならどうやって終わりにする?」
「アンディ・・・・・・?」
を拘束していた腕を解き、ゆっくりとサイドボードへと移動した。
「敵であるものを・・・・・全て滅ぼしてかね?」
ゆっくりと振り返った彼の右手には、銃が握られていた。