どうして君は笑っていられるんだ?















どうして君は俺に、これを託したのだろう。


























時の砂 5























あのあと、アスランは自室へと戻った。
誰もいない、一人きりの部屋。
ルームメイトのラスティも、戦死した。
思うことはたくさんあって、けれど浮かんでくるのは少女の泣き顔。



「どうしてこれを俺に・・・・・」



カランと音を立ててサイドボードの上に置かれたのは、ミゲルの形見。
本来なら彼女が持っているべきものだというのに、はそれをアスランに託したのだ。
アスランに、持っていて欲しいから。
そう言って儚げに微笑んだ彼女。
どうしてこんなにも頭から離れないのだろう。
きっと今頃、彼女はミゲルの荷物を泣きながら整理しているのだろうと思うと、なぜか切なくなった。










このときのアスランはまだ、知らなかった。












その指輪に隠されたの想いを・・・・・・・・・・・・・・。






























―――、至急ブリッジまで・・・・・繰り返す




、ただいま出頭いたしました!!」

「突然すまないね」

「いいえ」


敬礼をしながら、は僅かに微笑んだ。
その前で含み笑いを浮かべているのは、クルーゼ隊隊長ラウ・ル・クルーゼだった。
正直言うと、はクルーゼのことが苦手だった。
なにを考えているか分からないし、その顔の半分は仮面で覆われている。
それでも、形式上は自分よりも上で、逆らうことは許されない。


「当艦はただいまよりプラントへ帰還する。 よって、君に転属命令が出ているのだよ」

「ガモフに・・・・ですか?」

「いや、地球だ」


どうして地球なのだろう、そんな疑問を抱いた。
けれど、今更考えたところで転属しなければならないことに変わりはない。
だとすれば悩むのも馬鹿らしくて、は考えるのを止めた。


「本日より君は、バルトフェルド隊に転属だ」

「はっ!!」







砂漠の虎との異名をもつバルトフェルド隊隊長、アンドリュー・バルトフェルド。
無類のコーヒー好きで、彼の任されている基地内は絶えずコーヒーの香りがすると言う。
見たこともない地球を思い浮かべ、少しだけ楽しみになった。
それでも、アスランと離れてしまうという事実に、はため息を吐いた。


・・・・・」

「アスラン」

「隊長から聞いたよ。転属になるんだってな」

「ええ」


どうして、こんな時にアスランと会ってしまったのだろう。
思わず泣いて縋ってしまいそうになる。
それは許されないことなのに。
でも、そうしたいと叫ぶ自分がいた。
なるべく笑顔で接しようと思っていたのに、なぜかアスランの方が悲しそうな顔をしていた。


「頑張ってね、アスラン」


早くこの場所から去りたくて、は必死に笑顔を作った。
でも、アスランに告げた言葉は本音。
本当に頑張って欲しかったから。
けれど、ミゲルのように生きろよ、なんて言えなかった。


「・・・・・どうて・・・・・君は」

「え?」

「どうして笑っていられるんだっ!?」

「きゃあっ!!」


突然肩を掴まれ壁に押し付けられた。
怒っているようなアスランの様子に、は肩を震わせた。
こんなアスランは見たことがなかった。


「どうして・・・・・君はそんなに強いんだ」


それは、あなたがいるから。
なんて言えなかった。
本当は、思い切り泣き叫んでしまいたい。
けれど、ミゲルはそれを望まないから。
ミゲルが好きだと言ってくれた笑顔でいたいと思ったから。
でも、それら全てはアスランがいるから出来ることだった。
震える唇を必死に動かして、言葉を紡ぐ。


「私は、強くなんかないよ」


アスランがその声にはっと顔を上げ、を見つめた。
瞳に涙を浮かべて、けれど懸命に微笑んでいる彼女がそこに居た。


「もう行かなきゃ」


そっとアスランの腕から抜け出して、は去り際にアスランの唇にキスをした。


・・・・・・っ!?」














ごめんなさい、ミゲル。

















私、約束守れそうにないわ。
















だって、こんなにもアスランが好きなんですもの。













「またね、アスラン」














きっとまた、貴方に逢えるわ。





















それは、願いではなく予感。