ねぇ、どうして?
私、あなたと約束したのよ?
なのにどうして・・・・・・あなたはここにいないの・・・・・・
時の砂 3
「ねぇ、ミゲル」
「どうした?」
「私ね、あなたに言いたいことがあるの。帰ってきたら聞いてくれる?」
僅かに頬を染めて、はミゲルに伝えた。
その様子でミゲルはなにが言いたいの察したのだろう。
ポンとの頭に手を置いて、にっこりと微笑んだ。
「分かった、いい子で待ってな」
「・・・・・うん」
それが、最後に見たミゲルの笑顔だった。
アスランたちの初任務はとても難しいものだと聞いていた。
しかし、一般兵の、しかもオペレーターであるに詳しい情報が入ってくるはずも無く、ただ待っているしか出来なかった。
そんな自分がもどかしい。
けれど、ミゲルも、そしてアスランも必ず帰ってくると約束してくれたのだ。
それがどんなに曖昧な約束だと分かっていても、言わずにはいられなかった。
「ミゲル、アスラン・・・・どうか無事で・・・・・・」
彼らが向かったコロニー、ヘリオポリスが見える展望室で、はただ祈っていた。
戦闘が始まるまで、の仕事は無い。
私に出来るのはこれくらいだから。
他に何もできないから。
でも、無事に戻ってきたあなたたちを笑顔で迎えるわ。
だから・・・・・・・・お願い
どうか、どうか無事で・・・・・・・・・・・・・・。
アスランたちが戻ってきた。
その知らせを聞いて、は真っ先に格納庫へと向かった。
ふわふわと漂いきょろきょろと視線を彷徨わせる彼女を咎めるものはここにはいなかった。
「あっ・・・・・・・アスラン!!」
本当はミゲルを探していたのだけれど、の目に入ってきたのはアスランだった。
それでも、笑顔で出迎えると誓ったのだから、アスランに声をかけた。
「おかえりなさい」
「・・・・・」
「アス・・・・ラン?」
無事に戻ってきたというのに、アスランの表情は曇っていた。
どうしてなのか、そう思ったけれど初任務だったのでそれは仕方が無いのかもしれない。
そして、ミゲルの居場所を聞くために、は口を開いた。
「アスラン、ミゲルを知らない?」
「・・・・・・・・っ!?」
「なにやってるのかしら・・・・・」
無邪気な笑顔を浮かべるを、アスランは心痛な面持ちで見つめていた。
無事に帰ってきていると信じて疑わないこの少女に、どうして残酷なことが言えようか。
それでもアスランは、その想いを託されたものだから、教えなければならなかった。
例えその結果、を傷つけることになろうとも・・・・・・。
「・・・・」
「なあに?」
けれど、この場所で告げることが出来ない内容で、仕方なくアスランはの腕を引いていった。
戸惑いの表情で自分を見上げるは、けれど大人しく従っていた。
「どうしたの? アスラン」
が連れて来られたのは先程まで居た、展望室だった。
アスランは相変わらず無言のままで、俯いていた。
「アスラン?」
「・・・・・ミゲルは、戦死した」
「え・・・・・・?」
戦死した・・・・・・・・。
その言葉がの頭の中を駆け巡る。
今、彼はなにを言ったのだろう。
ミゲルが、いない?
彼は・・・・・・死んだ。
「うそ、だよね!? うそでしょうっ!!」
「・・・・ごめん」
「うそだって、うそだって言ってよ、アスランっ!!」
アスランのパイロットスーツを力いっぱい握り締めて、は悲痛な声を上げた。
信じることが出来なくて、うそであって欲しいと願った。
けれど、アスランの口からが望んだ言葉が、呟かれることはなかった。
「約束・・・・したのに。 話し聞いてくれるって・・・・・」
「・・・・」
「どうして・・・・どうしてなの!! ミゲルっ!!!!!!」
泣きじゃくる彼女を、アスランはただ抱きしめていることしか出来なかった。
大切な者を失う悲しみを知っているから。
だから、今は思い切りないた方がいい。
背中に腕を回し、握り返してくる掌はアスランよりも小さくて。
守ってあげたい、とそう思った。
「嫌よ・・・・私・・・・」
「・・・・・」
「そんなのいやぁ・・・・・・嫌だよぉ・・・・・」
とても小さな少女の鳴き声は、きっと届いただろう。
宇宙(そら)に眠る、ミゲルの元まで・・・・・・・・・・・・・・・。
あのね、ミゲル・・・・・私、アスランが好きなの。
その言葉が、彼に伝わることは・・・・・・・・・・・・・・・もうない。