これは夢・・・・・・・?
でも・・・・温かい。
生きていたなら、もっと早く会いたかった。
でも、おかえりなさい・・・・・・アンディお兄ちゃん。
時の砂21
今アスランの横をすり抜けたのは漆黒。
そして向かった先は、砂漠の虎――アンドリュー・バルトフェルドの腕の中。
アンディ・・・・・・。
親しいものを呼ぶときにしか使わない愛称。
目の前に漂う水滴は、彼女の涙だろう。
いったいどういう関係なのだろうか。
考えただけで、アスランは嫉妬で気が狂いそうだった。
「よかっ・・・・よかった・・・・」
「・・・おいおい、はもう子供じゃないだろう?」
「っく・・・・ひっく・・・・だって・・・・だって」
身体を離そうとするバルトフェルドの腕を拒み、必死に首へしがみつく。
困った風な、けれど嬉しそうな笑みを浮かべながら、バルトフェルドはの頭を撫でている。
恋人同士というにはどこか親子のような雰囲気を醸し出していたけれど、それでもアスランは・・・・・・。
「あらあら、バルトフェルド隊長。皆さんが驚いていますわ」
説明していただけます?
真っ先に口を開いたのはラクス。
待っていましたとばかりに、周りの驚いたような視線が興味を含んだそれにかわる。
泣きじゃくるをそのままに、彼は困ったような表情を浮かべたあと、語りだした。
「勘違いされては困るが・・・・俺とは・・・・・・」
彼の話をわかりやすくまとめるとの母親の弟で、彼女の叔父にあたる。
が幼い頃に一度会っており、少し前に偶然再会したこと。
それを聞いて、アスランは胸に渦巻いていた禍々しい気持ちが消えていく。
「アイシャ・・・・は?」
今まで黙っていたは、突然バルトフェルドを見上げると、縋るような視線を向けた。
信じたくない。
そう訴えているようで、告げたくはなかったが・・・・否、バルトフェルド自身も信じたくなかったのだろう。
言ってしまえばそれが本当になってしまうから・・・・・。
けれど真実を伝えなければならない。
「・・・アイシャは・・・・」
「うそでしょう・・・? うそ・・・・だよね・・・・」
一向に信じようとしないに答えるかのように、バルトフェルドは首を横に振った。
お姉さんのような彼女は、もういない。
なぜバルトフェルドが助かって、彼女が死んでしまったのだろう。
ジワジワと滲む涙は、けれどその瞳から零れ落ちることはない。
歪んだ口元は、必死に泣くのを堪えるように噛み締められている。
カツン・・・・・・・
まるで止められた時を動かすように、靴の音が響いた。
重力が多少ながらも設定されている格納庫は、僅かに歩くことが出来るのだ。
そしてその足音が誰のものなのかわかってしまう。
だって・・・・それはザフト軍の靴特有の音だから。
「・・・・泣いていんだぞ?」
「っ!? ・・・・ア、ス・・・・っ!!」
背中越しにかけられた優しい言葉。
久しぶりに聞いた、少し低いテノールの響き。
どれもがの身体を駆け抜けて、最後に甘い温もりを与える。
顔を両手で覆い泣き出したを、アスランは後ろからそっと抱きしめた。
どうして彼女には・・・・悲しみしか与えてくれないのですか・・・・・?
優しい恋人の心を想い、アスランも共に涙を流した。
「さっきはありがとう・・・・」
「いや、俺もこの指輪に守ってもらったから」
「・・・・腕・・・痛くない?」
自分のことではないけど、それでも同じくらい辛そうにアスランの腕に触れた。
そんな彼女の優しさが、アスランは好きだ。
大丈夫だよ、と微笑むとは窓の外へ視線を移す。
そこにはラクスたちが乗ってきたエターナルがあって、可愛らしいピンク色の戦艦が、けれど恐々しくその存在を感じさせる。
「すごいね、ラクスさんって・・・」
「え?」
「私にはできないよ・・・・」
だから彼女には勝てない・・・・。
「婚約者なんでしょう・・・・・?」
「元ね・・・」
「でもっ!!」
「俺にはがいるだろう?」
この前いった言葉は嘘じゃない。
そう呟いたアスランは、少しだけ悲しそうに見えた。
ああ、この人を傷つけてしまった。
信じなければいけなかったのに。
でも、嬉しい。
「アスラン・・・・ずっと一緒にいてね」
「ああ・・・・いつでも一緒だ」
どちらからともなく抱き寄せ合うと、は目を閉じた。
それから3日後・・・・・・・・。
未来をかけた最後の戦争が、静かに幕を上げた。