きっと無事で帰って来るよね











またこうして祈っていることしか出来ないけれど











それでもやはり、信じ続けていた・・・・・・・・・
















時の砂 20





















「エターナル、発進してください!!」


その声はまだ若い少女の声だった。
けれどそこに年相応の可愛らしさなどなく、凛とした強い声をしている。
プラントのアイドルとまで言われていた、ふわふわとした雰囲気をしていた少女は、キリッと張り詰めた表情で戦場へと飛び出していく。

それでも・・・・行かなくてはならないのです。

決意を秘めたその声に、反論する者などいるはずもなく、皆がそれぞれに頷いていた。













「アスラン・・・・・行くのね」


どこに、とは言わない。けれどにはわかっていた。
いつかはこうなることを、そしてそのとき自分は黙って見送ることしか出来ないのだと。
そう、彼を止める術など持ってなどいないのだ。
否、止める事など出来ない、してはいけないことだから。


「・・・・・・・・・・俺は」

「わかってる。だから何も言わないし私は止めない」


言いかけたアスランの声を遮って、は伝えた。
泣いて縋って、我侭を言ってしまえば楽なのに。
そうすることは出来なかった。
聞き分けのいい子どもみたいに振舞って、必死に微笑むことが今の自分に出来る全てだったから。


「ねぇ、アスラン。一つだけ約束して」





――――――――私の所へ、なにがあっても必ず帰ってくるって・・・・・・






そういって、悲しげに送り出してくれたの姿が脳裏に浮かぶ。
プラントへ戻って父に会って、そして撃たれた。
見知らぬこの男性がいなければ、今頃こうしてここにいたかさえもわからない。
素性を明かさぬ男性は、アスランを連れて宇宙へと向かう。
何も聞くことが出来ずに、ただ黙ってこの男に従う他ない。
そして乗り込んだ艦で、まさか彼女に会うだなんて、思ってもみなかった。


「アスラン!」

「ラクス!?」

「よう、初めまして。アンドリュー・バルトフェルドだ! ようこそ、歌姫の船へ」


いつもとは雰囲気の違う服を纏い、結い上げられた髪がより一層彼女の凛々しさを増していた。
何故こんなところに彼女がとか、この艦はいったいどこに向かっているのか。
そんな疑問が浮かび、状況が掴めないままでいるアスランの前で、見たこともないような強い口調で語りかけるラクスの姿。
攻めてくるザフトの機体を見て、アスランはこの艦は追われているのだと言うことだけは、なんとか理解することができた。
そしてそこで初めて、彼女は反逆者だとそう言って父に告げられていたことを思い出す。


「迎撃 追いつきません!! ミサイル当たります!」


向かってくる、無数のミサイル。
機体を積んでいないこの艦の防御だけでは追いつかず、迫ってくる。
もうだめだと、誰もがそう思ったとき。
斜め上から飛んできた一筋の光が、あたる直前のミサイルに命中した。
そして瞬く間に数機の機体が撃破される。


「こちら、フリーダム キラ・ヤマト」


それはアスランを途中まで見送ってくれたキラだった。
てっきり帰っているのだとばかり思っていたけれど、そのおかげで助かったことに、アスランは安堵の溜息を吐いた。

















スペースコロニー メンデル。
廃棄されたそのコロニーに、隠れるようにして潜伏していたAAの元へ、フリーダムから連絡が入った。
そして、アスランも無事だとに知らせが来たのは、彼らが戻ってくる数時間前のことだ。
クサナギからAAへと移ってきていたは、マリューたちとともに格納庫へと向かった。
その先で見知らぬ戦艦があったことから、はマリューに訊ねる。


「マリューさん、あの艦は・・・・?」

「あの船は私たちの味方だそうよ」

「ピンクのお姫様が乗ってるんだと」


苦笑しながらも、の質問に答えるマリューの横から、フラガも口を挟む。
ピンクのお姫様。
その言葉での脳裏を過ぎった人物は一人しかいない。


「ラクス・クライン・・・・・」

「なんだ、知ってたのか?」

「ムゥ、彼女はプラントに住んでいたのよ? 知っていて当然だわ」


プラントに住んでいた。
以前はコーディネイターのくせにという、嫌味でしかなかったけれど、マリューたちからはそんな含みはなく、自然に受け止めることが出来た。


「あの・・・・私ちょっと・・・」


アスランに会えることが嬉しくてたまらなかったけれど、重要なことを忘れていた。
こんな気持ちのままでアスランに会うことは出来なくて、はそっと抜け出すと遠巻きに見つめることにした。
彼のことを信じていないわけではない。
それでも彼女の、ラクスの気持ちをは知らない。
どんな人なのかさえも。
もし彼女もアスランのことが好きで、ラクスをエスコートしてアスランが一緒に出てきたりしたら・・・・・・。
そう考えると素直になれなかった。


「初めまして、わたくしはラクス・クラインです」


凛と響いた彼女の声に、ざわめきは止まる。
その後ろから出てきたアスランを見て、の胸は痛む。
けれど彷徨うその視線が、自分を探しているのだと気付くと、痛みよりも嬉しさの方が勝った。
今すぐその胸に飛び込んで、抱きしめられたい。
そんな衝動が彼女を包み、自然と足が速くなる。
けれど次に響いた声に、の足は止まった・・・・・・・・。


「初めまして・・・・・というのは、変かな?」


その光景が信じられなくて、身体の震えが止まらない。
頭でそれを理解するよりも早く、の身体は動き出していた。




「アンディ・・・・・っ!!」




突然響いた声に辺りが騒然とする中、泣きながら走ってきたは、アスランの横をすり抜けると、バルトフェルドに抱きついていた・・・・・・・・。