強くなりたい。






人は皆そう願う。






けれど時にそれは、狂気に変わる。







私もその一人だったから・・・・・・・・・。











時の砂 19










がカガリの部屋へ向かう途中、同じく彼女の元へ向かおうとしていたアスランとキラに出くわした。


「あ・・・・」


気まずくなって、思わず視線を逸らす。
そんなの背中を押すように、傍らにやってきたアスランは、そっと彼女の手を取る。
不安げに彼を見上げれば、大丈夫だとそう言ってくれたような気がした。
触れ合った掌から伝わる温もりに、勇気を分けてもらいながら、はキラを見る。


「あの時はごめんなさい」


ほんとはもっと言いたいことがたくさんあった。
けれど今は、一言謝るだけで精一杯で・・・・・・。
あの時、無性にキラを愛しいと感じたのは、彼を通してアスランの影を探してた。
そんな気がする。
考えれば考えるほど、自分が愚かで、情けなくて、悔しい。
そんな自分を見られるのがイヤで、は俯いていた。


「僕の方こそ、ごめん」


その声に顔を上げれば、彼は優しく微笑んでいた。
謝らなきゃならないのはの方なのに、彼の優しさが胸に染みて、は涙を流す。


「ありがとう・・・・」


はそう微笑み返すことしか、出来なかった。






















扉が開くと、ベットに座って泣いていたカガリがこちらを見た。
悲しみとも苦しみとも取れない複雑な表情を浮かべたまま、縋るような瞳をしている。
けれどそんな自分を悟られないように・・・・・そうして気丈に振舞おうとしていた。
声をかけるべきか否か、が迷っていると、背中からキラの声が聞こえた。


「・・・・・カガリ」


キラもまた、カガリにかける声が見つからないのだろう。
声色が少し悲しかった。
こういうとき、そっと微笑みかけてくれる人がいたら、それだけで救われるだろう。
自分を、そして壊れかけた心を癒してくれる人がいるだけでいい。
例えその優しさの裏に、残酷な考えを持っていたのだとしても。
そして今のカガリにとって、自分を支えてくれる存在はキラなのだろう。
彼女はただ黙って、けれど今まで必死に耐えようとしていた涙を溢れさせて、力強くキラの胸に飛び込んだ。


「・・・・・キラぁ・・・っ!!」


そんなカガリを動揺した様子もなく、自然な動作で受け止めると、キラは彼女の髪をそっと撫でた。
まるで子どもをあやすような、そんな仕草だったけれど、それでもカガリは声をあげて泣き続けていた。
何かを訴えかけるわけでもなく、ただひたすら涙を流す。
感情を押し込めてしまうより、思い切り胸のうちを、心のなかの気持ちを素直にさらけ出すことで、どんなに心が軽くなるかは知っている。
そしてそれは、肉親という最も大切な人を亡くしてしまったカガリも同じ。


「どうして・・・・・・?」

?」



どうして戦争は・・・・・争いは悲しみしか生まないのだろう。
それを知っていて何故、私たちは憎しみあうのだろう。
愚かなことだと気付いているのに、認めたくなくて目を逸らす。
些細な違いなど受け入れてしまえばいいのに。
失った悲しみで前が見えなくて、真実さえも霞んでしまう。
守りたくて軍に入った。
けれどそれは、本当に正しかったのだろうか・・・・・・・?






それでもは前を見つめ続けることができる。






アスランの腕に自分のそれを絡ませて、指に触れると硬く握り合った。




















「・・・・それ、本当なの?」

「確かにいったんだ、"お前は一人じゃない、兄弟もいる"って・・・・・」

「・・・・・・・」


カガリからキラへと渡された一枚の写真。
そこには優しく微笑む一人の女性と、その腕に抱かれる二人の赤ん坊が写っていた。
写真を握るキラの手は僅かに震えている。
半信半疑で、けれどその写真を裏返すと・・・・・・・・。


「・・・・・・・っ!?」


『kira・Cagarli』

写真の裏にはそう記されていた。


「・・・・双子・・・・?」


呟かれたキラの声に、とアスランは何もいえないでいた・・・・・・・・。