その日、悲しい叫び声が響いた。










どうして戦争は、悲しみしか生まないのだろう。













時の砂 18














結局あの後、すぐに戦闘が開始され、アスランと甘い時を過ごすこともなく、ましてやキラに謝るチャンスもなく、はカガリの元へ向かった。
ザフト軍のオペレーターをしていたとはいえ、ここでは記憶喪失の少女だった。
そんな彼女に仕事があるはずもなく、一度戦闘が始まればただみんなの無事を祈るだけ。
前と何も変わらない。
そんな自分が酷く滑稽に思えてくるが、仕方ないのかもしれない。
薬指に光る指輪を見つめながら、は司令室へと急いだ。






「カガリ!!」

「シ・・・・いや、だったな」

「あ・・・ごめんなさい」

「謝ることではないだろう? 気にするな」


記憶が戻って良かったな、そう言って微笑みながら、の頭を撫でる。
カガリの優しさに、泣きそうになってしまったけれど、泣かなかった。


「私に出来ることはないですか」


真っ直ぐカガリを見つめて問う。
その瞳に迷いは見えなくて、そのことに驚きながらも戸惑いが隠せないでいた。
自身、出来ることがないかと問うたところで、何も出来ないのだと分かっている。
MSに乗り戦闘に参加することも出来なければ、カガリのように指揮を執ることも出来ない。


「気持ちは嬉しいんだが・・・・・」


困ったような表情のカガリに内心気落ちしながら、それを気づかせないように笑みを浮かべた。


「そうですよね、ごめんなさい・・・・・突然」

「いや、そんなことはない! よかったらここにいるか?」

「・・・・いえ、邪魔になると悪いですから」


カガリの気遣いは嬉しかったけれど、はそれを受け入れることは出来なかった。
邪魔になるから・・・・・それも確かにあったけれど、軽はずみでそんな事をいってはいけないのだと気づいのだ。
このままここにいたって、アスランのことが気になってしまって落ち着かないだろう。
そしてもし彼に何かあったら・・・・・・。
そんなことあるはずがないと思いながらも、それでもやはり不安はある。
この不安が消え去ることは、きっとこの先ないだろう。
ではどうしてそうだと分かっていて、自分はここに来たのだろう。
そこまで考えて、は気づいた。
もしかしたら、きっかけが欲しかったのかもしれない。
記憶を取り戻した今、カガリとの関係は曖昧なものだったから。
今までとなにも変わらないのだと、確かな確信が欲しかった。
なんだ・・・・そうなのか。


「ほんとうにごめんなさい・・・・・」


その言葉は悲しい声で呟かれたけれど、の表情はどこか吹っ切れたような顔だった。











激しい戦闘が幕を開けた。
皆心に願うのは"オーブを守りたい"
それだけをただひたすらに願っていた。
けれどウズミが下した判断は、オーブからの離脱。
このまま打ち合って、仮に国が守れたとしても失うものは大きい。
未来を築く若者をここで失うわけにはいないのだ。
戸惑いながらも、ウズミの命に従いアークエンジェルは宇宙へ向かうことになった。
彼らはまだ知らなかった、ウズミが下した決心を・・・・・・・・。








「お父さまぁあああぁ――――――っ!!」








少女の悲しき悲鳴が響く中、司令本部は炎に包まれていく。
その様子をクサナギの窓から見ていたは、驚きに目を見開いていた。







また失ってしまった。
守りたい場所を、大切な人を。
受け入れがたい現実は、人の心を蝕んでいく。
もっと強くなれたらいいのに・・・・・・。
何度そう、願っただろう。
こんな時、カガリを支えてあげることの出来ない自分に苛立ちを感じ、は手を握り締めた。
今はもういないミゲルと、最愛の人であるアスラン。
は二人の思いが込められた指輪に、そっと触れた。


「私に勇気をくれる・・・・?」


守れる強さを、憎しみに囚われない心を、明日を信じて見つめ続ける瞳を―――――・・・・・。


幸せになりたいと願うことは大切なこと。
けれどそればかりに気をとられて、周りから目を背けてはいけない。
カガリが立ち直るための手助けなら出来るだろうか・・・・・。
そう考えたは、もう一度外を見て、遠く離れていくオーブ――地球――を眺めた後、ゆっくりと歩き出した。















"小さくとも強い火は消えない・・・・・、私たちは信じております"