やっと会えた・・・・・・。







私は・・・・・もう迷わない。











時の砂 17










「アスラン・・・・私・・・私っ!」

「もういい・・・もういいから・・・・・」


アスランに会えた喜びからか、それともそれ以上の悲しみからか、は彼の胸の中でなき続けていた。
さすがにあのままあの場所にいることは憚られて、アスランはとっさにを抱きかかえるとジャスティスの方へと移動した。
そして現在は少しだけ狭いジャスティスのコックピットの中で、アスランの膝の上にが座っているという、かなり密着した状態だった。


・・・・笑って・・・?」

「だって・・・だってっ」


アスランが優しく囁いても、そっと涙を拭っても彼女の瞳からはぽろぽろと涙が零れ落ちた。
頬を伝い落ちたその雫は、アスランのパイロットスーツに染み込んではシミを作る。
彼女が行方不明になったあの日から、がどんな生活をしていたのかアスランは知らない。
いや、そんなこと本当はどうだっていいのだ。
ただ自分は彼女に笑っていて欲しいだけ。


・・・・」


泣き続けるの顎をそっと持ち上げると、アスランは強引に唇を奪った。


「んぅっ・・・・っふ・・・んんっ・・・」


息を次ぐまもなく与えられるアスランの口付け。
苦しくて離れようとアスランの胸を押すけれど、彼はそれを許さなかった。
あっという間に抵抗する力は抜け、腕がカクンと下がる。
唇を割って入ってくる温かい感触に、は驚きながらも受け入れた。
何度も何度も角度を変えて激しいキスをする。
時折混じる水音は、の鼓動を早くした。
恥ずかしくて、でも嬉しくて、そんな複雑な感情が渦巻く中、やっとアスランがを解放した。


「・・・もう・・どこにも行かないで・・・」

「ずっとの側にいるよ」

「絶対・・・・約束よ、もう・・・一人はいやなのっ」


荒い息遣いの中、は泣きながらアスランに言った。
大切な人を失って、それでも尚求め続けた存在が今また、この腕の中にある。
音もなく零れ落ちていく夢の欠片は、もういらない。
欲しいのは確かな未来。


・・・・この戦争が終わったら、結婚しよう」

「・・・・・ほんと・・・?」

「ああ、約束だ。もう二度とこの手を離したりしないから」

「・・・はい・・・・っ」


この約束を胸に、どんなことでも乗り越えると誓った。
お互いに見つめあい、微笑むとゆっくりと近づく二人の距離。
もう一度触れ合った唇は、短い音を立ててすぐに離れた。


「アスラン、ミゲルのことを思ってくれるなら・・・・・」

「分かってる、俺は構わないよ」


の持つ指輪がアスランの首に通され、ミゲルの形見である指輪がアスランによってに渡された。
いつか好きな人ができたらこの指輪を相手に渡す・・・・・・。
その約束を果たす前に、彼は散った。
彼を知るアスランだから・・・・そしてその思いを託された者だから、はこの指輪を婚約指輪にしたかった。
彼女の言いたいことが分かったのだろう。
アスランは何も言わずにそれを受け入れた。


「ありがとう・・・・・」


はアスランに微笑むと、その胸に頬を寄せて抱きついた。
もう二度と彼に会えないと思っていた。
この腕に抱きしめてもらうことはないのだと・・・・・。
けれどアスランはここにいて、そして確かな温もりを感じさせてくれる。


「でもこんなに幸せでいいのかな」



「だって私・・・・キラに酷いことしたわ」


たくさんの人を傷つけて、そして自分も傷ついて、けれど捨てきれなかったこの思い。
本当は笑っていていいはずがないのに、そう何度も考えた。
が不安に顔を歪ませた時、アスランは強く彼女を抱きしめた。


、悲しいと思うなら幸せにならなきゃ」

「・・・・・アスラン」

「なんて、母上の受け売りだけどね」


生前アスランに様々なことを教えてくれた母。
コーディネイターとナチュラルは同じなのだと微笑みながらそう言った。
悲しくても辛くても、強く生きなければいけないと初めて厳しい表情を見せた母も、全てが今では思い出の中だけの存在だけれど。


「会いたかったな、アスランのお母様に・・・・」

「もう一度・・・会えたらいいのにな」

「あっ、ごめんなさい」

「いや、いいんだ。幸せになろう。ミゲルや散っていった仲間の分も」


今言うべき言葉ではない。
そんなこと分かっていたけれど、いつ無くなる命か分からないから後悔だけはしたくなかった。
戦争が、この果て無き争いが終結してから誓うべき言葉だと思う。
きっとはこのあともずっとアスランの無事を祈り、不安を感じていくのだろう。
だからこそ、アスランはなにがあっても希望を失わないでいられるように、そしてに信じ続けてもらえるように。
そんな願いを込めて、今この言葉を口にした。


「俺はもう、の側を離れない」

「私もアスランの側を離れないわ」


重ね合わせた掌は、しっかりと繋ぎあった。









彼はもう迷わない。







彼女の幸せを守るために、その剣を振るう。








まだなにを信じて戦えばいいのか、その道は見えないけれど。









それでも、小さな道標が見えた気がした・・・・・・・・・。