後悔しても止まらない。







私はもう・・・・誰も傷つけたくはないのに・・・・・・・。















時の砂 16
















「あなたは・・・どうして・・・・」

「シアっ!?」

「私・・・・私・・・・は・・・いやぁあああ――――――っ!!」



まだ状況を理解できていないのか、は酷く錯乱状態だった。
瞳から零れる涙が飛び散り、漆黒の髪が激しく揺れる。
そして力をなくしたようにその場に崩れ落ちた。


「シア!!」


キラは慌てて彼女に近づこうとするけれど、なぜか足が動かなかった。
今更ながらに体が震える。
鋭い視線と殺気を感じた身体は、キラの意思とは反して恐怖を感じていたのだ。



「私・・・分かってたの。あなたを憎んでも帰ってこないって・・・・」

「・・・・・・・・・」

「でも・・・・自分を抑えられなかった・・・・」


憎むだけは嫌なのに。
そう言って泣きじゃくるの姿に、キラは胸を締め付けられる。
どうして戦争はこんなにも醜いものなのだろうか。
悲しいと心が叫び、殺した人を憎めと体が動く。
けれど本当に追い詰められているのは自分の心。
信じられない思いと、悲しみの心を誰かを憎むことで必死に均衡を保とうとしている。


「ごめ・・・なさ・・・・・」

「どうして・・・・」

「あなたは悪くないのに・・・・」


キラはそのとき思った。
自分はこんなにも心優しき少女の心を壊してしまったのだと。
そして悲しみしか生まない自分の腕を呪った。
初めて自分は悪くないと、そう言ってくれた少女の幸せを奪ったのは自分なのだ。


「それでも・・・もう一度・・・・もう一度アスランに会いたいの・・・・っ」

「・・・・え!?」


















「お前・・・いいのか、これで」

「・・・・・・・」


カガリの問いに、アスランは答えなかった。
キラと会って、話して。
けれどアスランはまだ、キラの中では味方ではなかった。

また・・・・戦うのかな、僕たちも・・・・・・

最後に呟かれたキラの言葉が今でもアスランを縛り付ける。
どうしたいのか分からない。
どうすればいいのか分からない。
アスランを気遣って側にいるカガリでさえも、彼の真意は図れない。
戦って戦って戦って・・・・・けれど得たのは悲しみだけ。
混沌としたこの世界で、争いあい憎しみあっても先に待つのは希望ではなく絶望。
今まで信じてきたもの全てが消え、確かな答えも見出せない。

キミが今ここにいたら・・・・少しは分かるのかな・・・・

心の中で呟いた言葉は、誰の耳にも届かない。




ガッシャーン




静まり返った格納庫のなかで、大きな音が響く。
ジャスティスを見上げていたアスランは、音のした方へ視線を向けた。
同じくわけが分からない、といった風な表情のカガリがアスランを見た。
二人で視線を交わし小首を傾げてみるが、答えは分からない。


「アスラン、私は様子を見てくる」

「俺も行く!!」


走り出したカガリの後ろについていくように、アスランはジャスティスから飛び降りた。
















彼は悪くない。
そんなこと分かっているのに、心のどこかでまだ彼を憎んでいた。
キラを憎んではいけない。
彼は優しい人だから、人の死を悲しむ人だから。
でも今はまだ混乱していて何を信じればいいのか分からなかった。
こんな時求めたくなるのはアスランの温もり。
もう一度あなたに会えたら・・・・・・・・・。


「・・・・・っ!?」


の耳に響いた声は、今最も逢いたかった人のもの。
聞き間違えるはずがないその少しだけ低い声。
けれど彼がここにいるはずがない。
確かに戦死したと、そう聞いた。
でも・・・・・もし生きているのなら・・・・・・・。
は最後の願いを込めて、後ろを振り向いた。


「・・・っ!? アスラッ」

!!」


信じられない、お互いのそんな表情で相手を凝視する。
生きていた・・・・・・・。
同時にそんな嬉しさがの胸をこみ上げる。
近づいてくる翡翠の瞳。
探していた、求めていた存在が今目の前にいる。
は涙を溢れさせながら、向かってくるアスランに両手を広げた。
その腕に触れるように、アスランはを抱きしめた。
突然の別れと悲しみが、今また再会という形で安らぎを与える。


「アスラ・・・生きてた・・・・・・っ!!」

「ああ・・・もうどこにも行かないから・・・・」

「ひっく・・・・っく・・・アスランっ・・・アスラン!!」


漆黒の瞳から零れ落ちた涙は、の頬を伝いアスランの軍服に染み込んでいく。
そんな二人の様子を少し離れた場所から見ていたキラとカガリは、黙ってその場を後にした。








「失恋決定だな」


ポンとカガリが肩を叩けば、キラは儚そうに微笑んでいた。
悲しんでいるわけでもない、喜んでいるわけでもない。
そんな複雑な心境の中、カガリの存在はキラにとってありがたいものだった。


「カガリだってそうだろ・・・・・」

「・・・まぁ・・・な」


キラがに好意を寄せていたことをカガリが知っていたように、彼もまた知っていた。
カガリが僅かばかりアスランに好意を抱いていたことを。
もちろんそれは恋とは言いがたい感情ではあったけれど、でも思いを寄せていたことは確かなのだ。













戦争という名の運命に翻弄された恋は、もう一度繋がりあう。
















悲しみを乗り越え、孤独を経て・・・・・・・・今、目の前にキミがいる。