小さ過ぎて気づかなかった




















音もなく忍び寄ってくる不安は、確かにここにあるのに・・・・・・





















傷ついたこのココロは誰が癒してくれるのだろう























時の砂 13

















「敵だというのなら、わたくしを撃ちますか? ザフトのアスラン・ザラ!!」



こんな厳しい表情の彼女を見たことはなかった。
いつも優しく微笑んでいた彼女の中に、こんなにも激しい面が隠れていたんなんて・・・・・・。












アスランがプラントへ戻ってから知ったのはラクスが反逆者として追われていること。
そしてもうすでに彼女は婚約者ではないのだと、父に言われた。
どうしてこんなことになってしまったのか、アスランには分からない。
けれどどうしても、ラクスがこんなことをするということが信じられなかった。
きっとなにか理由があるのだと信じたかった。
そしてアスランはクライン邸を訪れた。


「これは・・・・・」


あんなにも美しかった光景はなく、全てのものが破壊されていた。
彼女が好きだといっていた薔薇も、なにもかも。



―――ハロハロ〜 アースーラーン


「ハロ? 何故こんなところに・・・・・」



突然茂みから飛び出してきたのは、アスランが彼女に贈ったもの。
それはラクスが特によく連れていたハロだった。
思い出すのはラクスとの会話。
ジッとハロを眺めていたアスランは、ふと思い出した。


「・・・・・まさか・・・・」


ハロに託されたラクスのメッセージをアスランは信じたかった。
アスランをそこへ導いたのだと。






荒れ果てたステージにアスランの靴の音だけが響いていた。
銃を構え警戒しながら奥へと進む。
差し込む光の真ん中で、ラクスは歌っていた。
アスランはゆっくりとステージと近づいていった。
あと数メートルというところで、ハロがアスランの腕を飛び出す。


―――ラクス〜

「やはりあなたが連れて来てくださいましたわね」

「どういうことですか、これは!!」

「お聞きになったからこちらにいらしたのではないのですか?」



追われる身でありながら、ラクスは穏やかな口調でアスランに問いかける。



「では本当なのですか!? スパイを手引きしたというのはっ」



違うといって欲しかった。そんなことはしていないと。
けれどラクスの口から呟かれた言葉は、アスランの望む答えではなかった。


「スパイの手引きなどしてはおりません」

「え・・・・・」


ラクスは薄っすらと微笑み、アスランをしっかりと見つめて言った。


「キラにお渡ししただけですわ・・・・・新しい剣を」

「・・・・キ・・・・・ラ・・・・?」

「今のキラに必要で、キラが持つのがふさわしいものだから・・・・・」



ラクスから呟かれた言葉に、アスランは己の耳を疑った。
もしもアスランがよく知るあの幼馴染のことだとしたら。



「何を言ってるんです!? キラは・・・あいつは・・・」


動揺を隠すことが出来ず、アスランは震える声で呟いた。
そんなはずがない、キラは・・・・・・・。



「あなたが殺しましたか?」

「!?」

「大丈夫です。キラは生きていますわ」

「うそだっ!!」


生きている、その言葉を素直に認めることが出来たのならどんなによかっただろう。
しかしアスランは信じることが出来なかった。
今でも鮮明に思い出せるあの光景。
あの状況の中、生きているということは奇跡に近い。


「あいつが生きてる筈がない!!」


それが分かっているから、だからこそアスランは激しく動揺していた。
思わずラクスへと向けられた銃口。
しかしラクスは表情を変えることなくアスランへ告げた。


「キラもあなたと戦ったと言っていましたわ」


何度も自分に言い聞かせた言葉。
キラは死んだ、生きていない。
けれど目の前の彼女はそれを覆そうとしている。


「言葉では信じませんか? ではご自分でご覧になったものは?」


次第に声色が硬くなり、アスランへ向けられるラクスの表情も険しくなっていく。



「アスランが信じて戦うものはなんですか? いただいた勲章ですか?」



お父様の命令ですか、ラクスはそう言った。
プラントに戻ってアスランが見たものは、信じられない父の行動。
そして核を撃たれたプラントが勝つために必要なのだと核を使う。
何故そこまでしてナチュラルを滅ぼそうとするのか理解できなかった。
いつの間にか何故自分は戦っているのか、それさえも見失っていたのだ。



「そうであるならばキラは再び敵となるかもしれません・・・そしてわたくしも・・・・」




















何と戦わなければならないのか。
その答えはいまだ見出せない。
しかしだからといって、大人しく命令に従うことが出来ない。
今の評議会は・・・否父、パトリックは人道から外れている。
そう思えて仕方がなかった。
信じられないのならば自分の目で確かめればいい。
きっともそう言うだろう。
今はもう見ることの出来ないあの微笑に思いを馳せながら、アスランは新しい機体、ジャスティスに乗り込んだ。



「アスラン・ザラ! ジャスティス、出る!!」




正義という名の深紅の機体が地球へと向かい出発した。











自分の正義とはいったいなんなのか。














何故自分は戦っているのか。













その答えを見出すために・・・・・・・・・・。