憎しみからはなにも生まれない














そんなこと分かっていたけど・・・・・・



















私は自分を止められなかった

























時の砂 12




















日は傾き、窓の外は夕日で赤く染まっていた。
その光景はまるで、あの惨劇のように思えてアスランは軽く目を閉じる。
先程クルーゼが来たとき告げた言葉は、アスランの胸を抉った。
親友をこの手にかけたというのに、プラントに帰ればよくやったと称賛されるのだろう。
それが簡単に想像できてしまう。
ベットの上で外を眺めながら、アスランは悔しさに唇を噛み締めていた。




「どうして・・・・・俺はっ!!」




怒りに任せて戦い、目の前の友すら認識できずこの手で殺してしまった。
深い後悔が押し寄せてはアスランを闇へと引きずり込もうとしている。
思わず右手を振り上げるけれど、最後には力を無くしてポテッと膝に落ちた。
あの時はどうして脱出してしまったのか分からなかった。
ただ無意識のうちにやっていたのだと深く考えることもしなかったのだ。
しかし今思うと、自分は死にたくなかったのかもしれない。
恐ろしいほどまでの生への執着が、自分を救ったのではないのかと。




「・・・・・・・・・・・」




親友をこの手にかけそれでも生きていてよかったと思えるのは、彼女の存在があるからなのだろうか。
出撃前、にとても酷いことをした。
その温もりを貪欲に求め、そして力任せに奪った。
は嫌がるそぶりを見せなかったけれど、アスランは罪悪感に苛まれていたのだ。
初めて守りたい、大切にしたいと思った人だから。
だが戻ってきて一度も彼女がアスランの前に現れることはなかった。




「アスラン」

「・・・・・・イザーク」



声が聞こえたのでそちらを振り向くとイザークが立っていた。
なぜ彼がここにいるのだろうかと不思議でならなかった。
いつも何かといえば敵対していた彼が、ここに来るはずはないとアスランは思っていたからだ。
だがこの地球に降りてきて状況はあまりにも変わりすぎた。
ニコルの死、ディアッカのMIA。
今こうして無事でいるのはアスランとイザークの二人だけだった。
カツカツと靴の音がして、イザークがアスランの側まで歩み寄った。



「・・・・・・一つ聞きたいことがある」

「なんだ・・・・・?」

「お前は、とよく話していたな?」

「・・・っ・・・・・ああ」



ビクリと一瞬肩が揺れた。
今のアスランにはこの動揺を悟られないように返事を返すので精一杯だった。
そんなアスランの様子に気づいているのかいないのか、イザークは話を続けた。



「・・・・がいなくなった」

「なっ!? どういうことだ!!」

「・・・・・俺が朝あいつの部屋に行ったときにはもう・・・・・いなかった」



アスランに残されていたもう一つの希望は砕かれた。
それと同時になぜが現れなかったのか納得がいく。
来なかったのではない、来れなかったのだ。
しかしいなくなったということは、まだ死んでしまったわけではない。
生きているかもしれない、否生きていると信じている。



その後イザークはアスランに詳しい経緯を話したあと部屋を出て行った。
























一人の少女がオーブの海岸沿いで海を眺めていた。
もうすぐ夕暮れ時のこの時間、風も強くなってきている。
けれどその少女は、ただじっと座って海を見つめていた。



「・・・・・・・・」

「おーい、シアこんなところにいたのか?」

「・・・・・・はい、ごめんなさい。勝手に抜け出してしまって・・・」



金髪の少女がシアと呼ばれた少女に駆け寄った。
シアは立ち上がると申し訳なさそうに頭を下げる。
それを手で制すると金髪の少女はまるで太陽のように微笑んだ。



「いや、いいんだ。シアは海が好きなのか?」



それは常日頃から不思議に思っていたことで、いつか聞いてみたいと思っていた。
暇があれば抜け出して海を見に来るシアは、少女が迎えに来なければ何時間でも海を眺めている。
もうすぐ冬に入るだろうこの季節、ワンピースにカーディガンを羽織っただけの薄着で出て行くのだから、風邪を引かないだろうかと心配でもあった。
そんな少女の心を知ってか知らずか、シアは淡々と感情のこもっていない声で呟いた。




「・・・・分かりません。ただ・・・・・」

「ただ?」

「・・・・・いいえ、なんでもありません。帰りましょう」




なぜか少女には、言葉を濁し曖昧に微笑むシアがとても儚く見えた。
一瞬悲しそうな表情を浮かべたあと、シアは薄っすらと微笑み少女の腕を引いていった。




















海は好き。























でも、嫌い―――――。