どうして私の大切な人はいつも























私の元に帰ってはこないのでしょうか























時の砂 11






















朝から感じていた妙な胸騒ぎが現実になるなんて、は思ってもいなかった。














・・・昨日はごめん」



そう一言残してアスランは部屋を出て行った。
昨日のアスランはとても余裕がなくて、まるで獣のようにを求めた。
貪るような口付けに翻弄されながらも、その行為に優しさは感じられなかった。
それでもはアスランのことを愛しいと感じたのだ。
アスランが悲しみを乗り越えてくれるのなら、それでいい。
少しでも自分という存在に心を癒してもらえれば満足だった。



「・・・・・私は・・・・・・なにができるんだろう」



涙でぐちゃぐちゃになったアスランの軍服が床に落ちていて、はそれを拾うと自分の肩にかけた。
まるでアスランに抱きしめられているような安心感。
知ってしまった温もりは、もう二度と手放すことは出来ない。
こんな戦争早く終わってしまえばいいのにと、何度願ったことだろう。
それでも・・・・・・・アスランに無事でいて欲しい。











それが一番の願いだった。
















MIA――その言葉がの脳裏に浮かんだ。
イージスはストライクとの交戦中に爆発炎上し、パイロットの生死は不明。
バスターもMIAに認定されて、無事に帰ってきたのはデュエルのみだった。


戦闘中ブリッジで気を失ってしまったの元にイザークが訪れていた。
そして目覚めたは真実を知った。
アスランはMIAだとイザークが言った瞬間、は突然激しく取り乱し始める。
ミゲルの時はなんら変わった様子のなかった彼女が、まさかここまで我を忘れてしまうとはイザークも思っていなかった。



「いやっ・・・・・・いやぁああああ――――――っ!!!!!!」

「落ち着け、!!」



その報告を聞いて、は思わず耳を塞いでしまいたかった。
アスランは死んだ。
ストライクのパイロットに殺された・・・・・・・・・。
それだけがの頭の中を占めていた。
落ち着かせようと必死で腕を掴むイザークを拒絶して、いつの間にかその瞳には憎しみの色が宿っていた。



「どうしてあなたは・・・・・・いつも私の大切な人を奪っていくの・・・・」

「・・・・・・?」



始めはが何を言っているのか分からなかった。
ポツリポツリと呟かれる言葉が、自分に向けられているものだとは思えなかったから。



「許さないから・・・・・・あなただけは、ストライクのパイロットだけは絶対にっ!!」

「お前・・・・・・・」




しかし彼女の口からストライクという言葉が紡がれ、イザークも納得する。
けれど彼女の憎しみは尋常ではなく、このままでは危険だと判断した。
確かにイザークだってストライクのパイロットが憎い。
ニコルも殺され自分も傷を受けた。
この憎しみは誰にも止めることなど出来ないだろう。
しかしだ、彼女はもうすでに正気をなくしている。
憎しみだけに囚われすぎていた。



「・・・・すまない・・・・」

「・・・・うっ!?」



イザークは立ち上がってに近づくと、腹を殴った。
ぐったりとして気を失ったをベットにそっと寝かせる。
上からブランケットをかけてやり、イザークは指での涙を拭った。



「・・・・・・スラ・・・・・いかな・・・・で・・・・」




その小さな呟きはイザークに聞こえることはなかった。
一度だけの方を振り返り、イザークは静かに部屋を出て行った。






ドカッ





何かを殴りつけるような音が廊下に響く。
イザークは壁を拳で殴りつけていた。
自分でもどうしてなのか分からない、ただ怒りに身を任せて殴りつけただけ。
無性に自分が情けなく感じたのだ。
たった一人の少女の笑顔すら取り戻すことが出来ない。
その時儚げな少女の泣き顔が脳裏を掠めた。
いつも笑っていた彼女が憎しみに心を染めていたという事実は、イザークに衝撃を与えた。
どうしてこんなことになってしまったのか、それは分からない。
全ての原因はこの戦争にあるのではないか。






けれど自分はただ、彼女の笑顔を守りたい――――――。




















その翌朝、は姿を消した・・・・・・・・・・・・・・・。















ディアッカ・エルスマン、アスラン・ザラ――――MIA












――――失踪・軍籍抹消