あなたの悲しみは私の悲しみ
傷ついたあなたの心を
私は、癒すことが出来るのでしょうか
時の砂 10
オペーレーターとして久しぶりに席に着いた。
懐かしさを感じながら、これからアスランが戦闘に出るのだと思うと不安も感じた。
「・・・・・・気をつけて・・・・・ください」
秘密の恋人同士だから表立って見送ることも出来ず、そう声をかけるので精一杯だった。
通信機越しの短い会話。
それでもの不安を和らげるには必要なことだった。
「ああ・・・・・ありがとう」
そっけないその声も、自分たちの関係を思うと仕方がない。
その分昨晩たっぷりとアスランに抱きしめてもらったのだから。
今は仕事に集中しなければならない。
「イージス発進どうぞ!!」
「アスラン・ザラ、イージス出る!!」
こんな時は状況がよく分かるブリッジにいられることに感謝している。
予測通り足つきが姿を現し、激しい戦闘が幕を開けた。
この時のはまだ知らない。
自分が憎んでいるストライクのパイロットは、アスランの親友だということを。
たった一機のモビルスーツに次々と落とされていく友軍機。
僅かばかりこちらが圧されている。
それほどにストライクは腕を上げていた。
バスター、ブリッツ、デュエルはすでに戦闘不能状態で、残っているのはイージスのみだった。
ほぼ一騎打ちともいえるその状況に、は息を呑んだ。
繰り出される攻撃をなんとか交わし、激しくぶつかり合うサーベル。
けれど次の瞬間。
「イージス、フェイズシフトダウンですっ!!」
本当はいますぐに駆け出して行きたい。
けれどそれは出来なくて、心の中で叫ぶしか出来なかった。
あなたはまた私から大切な人を奪うの?
やっと思いが通じ合ったのに、また失ってしまうの?
アスラン・・・・・逃げてっ!!
鮮やかな赤の機体は灰色に染まり、地面へ倒れこんでいる。
その正面には今まさに剣を振り下ろそうとするストライクがいた。
もうだめっ!! アスランっ・・・・・・・
がそう思った時、突然ブリッツの姿が現れた。
そしてストライクの剣は、その標的を変えて振り下ろされる。
「二コル――――――――――ッ!!!!!!!」
に聞こえてきたのはアスランの悲痛な叫び声。
爆発し炎上するブリッツに、もはやパイロットの生存は望めないだろう。
思わず視線を逸らしたくなるようなその光景は、ブリッジのメインモニターに映し出され、
その残酷さを生々しく物語っていた。
どうしてこんなことになってしまったの!?
・・・・・なにも出来ない・・・・・・・。
私にはあなたの傷を癒すことは出来ないの・・・・・・・・・?
アスランたちが帰還して、は一目散にロッカールームへと走った。
きっと傷ついているであろうアスランを抱きしめてあげたくて、そして無事を確認したくて。
走って走って走ってやっと見えてきたロッカールームの扉。
あと数メートルというところで、アスランの声が響いてきた。
「言えばいいだろうっ!? 俺の所為でニコルが死んだと、俺が死ねばよかったんだとっ!!」
「・・・・・っ!?」
その言葉に思わず息が詰まる。
痛いほどにアスランの悲しみが伝わってきた。
けれどその場所に足を踏み込むことは戸惑われて、次に扉が開かれるまではその場に立っていた。
どの位そうしていただろうか――実際はそんなに時間は経っていないだろう――プシューッと音がして扉が開いた。
中から出てきたのは怒りに満ち溢れているイザークと、どこか沈んだ表情のディアッカだった。
いつもならば軽く声をかけてくるはずのディアッカがなぜかそのままイザークと通り過ぎていく。
去っていく二人の背中を見つめながら、は悲しげな表情をしていた。
「・・・・・アス・・・・ラン・・・・・」
静まり返ったロッカールームには、アスランがニコルの軍服を握り締め床に落ちた楽譜を驚いたように眺めていた。
「どうして・・・・どうしてニコルなんだっ!!」
「・・・・アスラン・・・・」
はアスランに近づくと黙って胸に抱き寄せた。
アスランは抵抗することなく、ただ泣き続けていた。
悲しいときは誰かの温もりを求めたくなる。
自分もそうだったから、だからアスランがしてくれたようにはアスランを抱きしめた。
泣いてもいいんだよ、そうアスランに囁きながらの頬を涙が伝った。
少しでもあなたの悲しみが和らぐように。
私はいつでもあなたの側にいるわ。
だから、今は泣いていいのよ?
お願いだから、私の前でだけは強がらないで・・・・・・・・・