「初めまして、です」

























初めての出会いは、ミゲルの婚約者としての私。

























でも、いつの間にか一人の女として、貴方に見て欲しかった。























これが恋だというのなら、私はどうして彼を選んでしまったのでしょうか。



















時の砂 1


















「おい、。おまえも来い!!」

「へ? ちょっ、ミゲルっ!?」




まだ仕事が残っているというのに、突然ミゲルに腕を引かれた。
強引な彼の行動は、今に始まったことではないけれど、少しは周りのことも考えて欲しかった。
言葉を発することなく先を急ぐ彼の名は、ミゲル・アイマン。
「黄昏の魔弾」の異名を持つほどの腕前で、ラウ・ル・クルーゼ率いるクルーゼ隊のベテラン兵だ。


「ちょっと、ミゲルってば!! なんなの、一体」


抵抗することなくされるがままにしていた少女は、突然声を荒げた。
掴まれた腕を強引に払い、少しだけミゲルと距離をとる。
その時、少女の長い髪がサラリと揺れた。
驚いたように足を止め、後ろを振り返るミゲルを射抜く瞳は、少女の髪の色と同じ漆黒だった。


「おいおい、仮にも婚約者のこの俺にそういう態度か?」

「・・・・・・・・あなたにだけは言われたくないわ」

「それは酷すぎないか・・・・



からかうように口元に笑みを浮かべるミゲルの言葉を、はサラリと交わした。
婚約者といっても、それは所詮上辺だけのものでしかない。
出生率の低下の問題から、婚姻統制という方法が用いられ、自由な結婚は望めなかった。
親によって結婚相手が決められ、それに従うしかない。
その一人がだった。
ある日突然決められた婚約に、泣いた日もあった。
けれど、はその相手がミゲルでよかったと、そう思っているのだ。
親たちは知らない秘密の契約。
それは、お互いに恋愛感情がないからこそ出来るものではあったけれど・・・・・・。


「大体、恋人がいる人のセリフかしら?」

「・・・はいはい・・・・俺が悪かったよ」

「全然反省してないじゃない・・・・・」



咎めるような口調で言っても、ミゲルはなんら悪びれた様子はない。
それがさらにの怒りを募らせることになるのだが、ミゲルは気づいていなかった。
はふぅとため息を吐く。



「まぁ、いいわ。それで、一体私になんの用?」

「おっと、そうだった。実は新人の案内を頼まれたんだが、お前も手伝ってくれ」

「・・・・・・・・・・・・・・・はぁっ!?」

「隊長と艦長から許可は貰ったから大丈夫だって」



にっこりと笑顔で微笑むミゲルに、は逆らえなかった。



「やっ、ちょっ!! ミーーゲーールーーーーーーー!!!!!!」



襟首をつかまれ連れて行かれるの叫び声は、今日も艦内に響いていた。


































「なんで私が・・・・・」



シクシクとすすり泣く声が聞こえる。
部屋の隅で丸くなって落ち込んでいるのはだった。
明らかにその場所だけ空気が違う。
重苦しいその空気に耐え切れなくなったのか、ミゲルが口を開いた。



「そんなにいやなのか?」



どうってことないだろ、と続くはずのその言葉を遮るように、勢いよくは立ち上がった。



「全ての元凶はあなたでしょう・・・・・」

「げっ!! オイ、・・・・落ち着けって、な?」



このまま呪われてしまいそうなその雰囲気に、ミゲルは息を呑んだ。
引きつった笑みを浮かべながら、なんとかを落ち着かせようと試みるのだが、全てが裏目に出てしまう。


―――ピピピっ


「おっ、ルーキーが来たようだぜ」



助かった、と言わんばかりにミゲルは瞬時に反応した。
一方は、それでもミゲルを睨んでいたけれど、結局は従うしかないのでミゲルの後ろに立った。



「アスラン・ザラに、二コル・アマルフィーか」



入ってきた二人の少年は、エリートの証である深紅の軍服に身を包んでいた。
ミゲルは資料を覗き込みながら、品定めするように二人を見ていた。



「は〜ん、二人とも赤なんだ」

「はい?」

「いやいやいや・・・・優秀なルーキーが来てくれて俺も嬉しいですよ」


先程までの怪しげな視線は隠れ、今度は軍人としての顔を浮かべていた。
真面目な顔してればかっこいいのに。
は声に出すことなく、心の中で呟いていた。



「俺はミゲル・・・・ミゲル・アイマン。お前らの二期上だ」


そしてこっちは、とミゲルはの方を見た。
渋々と言った感じで、けれどは微笑んで挨拶を交わした。


「初めまして、です」

「よろしくお願いします!!」






















それが、とアスランの初めての出会いだった。